お父さんはサーバント: 細かすぎて市役所の中の人たちにしか伝わらない物語を書き続ける ④-1

 

 前回からの続き。

 

お父さんはサーバント: 細かすぎて市役所の中の人たちにしか伝わらない物語を書き続ける ③

 

現況:

物語を書こうとすると、浦安市役所の仕事の内容を勉強したり、市議会の動画を見ないといけないわけで、市役所って大変な仕事なんだなと素になって感じた。

 

小柳補佐と高橋係長が仕事中に話し続けていて、これはしゃべりすぎだと思ったけれど、物語の都合上、ここしか話せないので仕方なく続ける。

 


 

※ この物語に登場する人物、機関、担当課などの設定は、あくまでフィクションです。実際の市長や副市長、市役所の職員さんたちとは関係がありません。

 

登場人物の発言は実際の市職員の意見ではありません。「市役所の人たちの気持ちって、たぶん、こんな感じかな...」と地域住民が想像しているだけにすぎません。

 

ストーリーの中に、実際に行政が公開しているオープンデータを用いることがありますが、その場合にはその旨を記載します。浦安市のことに関心があれば、市のウェブサイトなどで確認してください。 

 


第八話: 職業人としての矜持を映す言葉


 

大型台風の上陸に備えて不夜城になっている深夜の浦安市役所。

 

情報政策課のフロアにて、ほとんど眠らずに作業を続けているGISタスクフォース。

 

小柳: ふぅ...こんな感じかな~。カタカタカタカタ

 

熊田: おい、笹本、俺たちって、いつから寝てないんだ? カタカタカタカタ

 

笹本: どうだろう? 24時間までは数えたけどな。なんだか楽しくなってきたよ!カタカタカタカタ

 

小柳: さて、熊田くん、笹本くん。そろそろ高橋くんが仮眠を終えて戻ってくるから、君たちは仮眠を取っておいてよ~。おかげさんで、一段落してきたよ。でも、まだまだ仕事は続くからね。北村くんにはもう少し休んでいてもらおう。

 

熊田: あれ? 君島さんは?

 

笹本: ほんとだ、さっき、上下のジャージに着替えているところまでは目にしたけど?

 

小柳: 彼のデスクの前の床を見れば分かるよ。

 

熊田: え...もしかして?

 

笹本: まじかよ? 床の上に倒れてるぞ!?

 

小柳: 寝てるだけだよ~。どうだ~、これが霞ヶ関に出向した君島くんのタフさだよ~。来年は、熊田くんが霞ヶ関に~、けってい~!

 

熊田: お断りっす。市職員のメリットは職場の近くに住めることなんですから、俺は布団の上で眠りたいです! 

 

小柳: じゃあ、笹本くんが出向ね~、市長に推薦しちゃおう~。総務省がいいかな~。あ、そうだ、君はICTが得意だから、内閣府とかどうかな~。

 

笹本: おい、熊田、おまえが行け!

 

熊田: なに言ってんだよ! 俺とお前は同期の仲だぜ! 一緒に行くぞ!

 

小柳: あ~、面倒だから二人とも出向しようよ~。出向したくなかったら、今すぐ何か食べてすぐに寝てね。

 

熊田・笹本: かしこまりです~。

 

小柳: 僕の真似をしなくていいから~。

 

熊田・笹本: ・・・・スピースピー

 

小柳:  ふぅ、のび太くんみたいに眠ったね~。そりゃ、20代でも疲れるよね~。カタカタカタ

 

高橋: 小柳さん、すみません。寝すぎました。

 

小柳: そんなことないよ、あけぼの橋くん。2時間睡眠でがんばってもらってすまないね~。カタカタカタ

 

高橋: あけぼの橋ではなくて高橋です。小柳さんこそ、少しお休みになってはいかがでしょうか? ずっとデータの入力とチェックを続けているでしょ? カタカタカタ

 

小柳: ああ、僕はさっき少しだけ休んだから大丈夫だよ。浦安市の統合型GISの最終チェックと、排水システム「オロチ」を動かす人たちのためにタブレット端末をリモートで動かしてチェックしておかないとね。君も、GISのレイヤーをチェックしておいてね。各担当課がきちんと用意してくれて助かるんだけど、何千枚もあるからね。そうそう、そろそろ現場のスタッフにGISのナビゲーションを開始するよ~。早くしないと、同期の草川に叱られちゃうからね~。「小柳! お前は、市職員の矜持があるのか!?」って。あはは~。 カタカタカタ

 

高橋: ・・・・カタカタカタ (えっと、インカムの通話設定を小柳さんだけに設定してと...)ポチッ あの...小柳さん。

 

小柳: ん? なんだい、神明橋くん? カタカタカタ

 

高橋: 神明橋ではなくて、高橋です。仕事をしながらで結構なんですが、以前から、小柳さんにお聞きしたかったことがあるんですよ。カタカタカタ

 

小柳: 眠気覚ましにちょうどいいかもね~、話してないと寝ちゃいそうだから~。 僕に聞きたいこと~? 好きな女性のタイプかい? 少女時代のね~。カタカタカタ

 

高橋: 違います。私がお聞きしたいのは、小柳さんにとって「仕事とは何なのか?」ということです。あなたは市職員として人一倍の業務量をこなしておられます。システムやGISにも詳しく、行政分野でのGIS上級技術者としての能力は、全国の自治体職員の中でもトップレベルだと尊敬しています。しかし、どうしてプライベートな時間までを使って、市役所の中の自主研究、市民活動、千葉県内の自治体職員の集まり、研究者が集まる学会の学術集会にまで参加するんですか? もっと、ご自身の家庭を大切にして、ご自身の趣味を大切にしたらどうなんでしょうか? そんなに頑張ることに意味があるんでしょうか? 頑張ったって給料が上がるわけでもなく、逆に市役所では白い目で見られるでしょ? カタカタカタ

 

小柳: うーん、僕にとっての仕事ね~。それは、「生きるため」かな~。カタカタカタ

 

高橋: 生きるためですか...それは、ご自身の生活のためということですか? カタカタカタ

 

小柳: 違うよ。僕だけじゃなくて、市役所の人たち、全国の自治体の職員たち、なにより、それぞれの街で生活するたくさんの人たちが生きるためさ~。 カタカタカタ

 

高橋: ・・・・カタカタカタ...カタ... たくさんの人たちが生きるため?

 

小柳: そう、僕は、ロマンティストの草川と違って、リアリストだからね。

 

高橋: あんなに地道な草川課長補佐がロマンティスト? 私からは逆に見えますけどね。

 

小柳: そんなことないさ~。子供の頃、草川と僕は同じ小学校に通っていた同級生だからね。二人で公園で遊んでいて、浦安の近くを飛行機が飛んだら、草川はいつも大空を眺めて、手を振っていたよ。彼は空が好きで、自由に飛び回る飛行機が大好きだったんだよ。

 

高橋: 子供の頃から真っすぐだったんですね。

 

小柳: うん。彼は今でもそうだろ? 市職員とはこうあるべきだって純粋に考えて、時にはストイックなまでに自分と向き合って。

 

高橋: 草川さんって、最初から市職員になりたくて入庁したのでしょうね。市職員の仕事にプライドというか、社会の奉仕者としての矜持があって素敵ですよ。

 

小柳: 今では立派だけど、草川は最初から市職員になりたかったわけじゃないよ。若い頃は、航空会社に勤めたかったんだよ。空が好きだからね。でも、その夢は実現しなかった。ほら、若い頃の判断って、今から振り返ると「あれ? どうしてこうなった?」って感じる時があるでしょ~。仕事も結婚もそうかな~。よく考えたつもりでもね。思った通りの人生を歩める人なんて少ないからね。それで、若い人たちって、ほとんどがそうだと思うけれど、「望むことと生きることは違うことだ」と頭では分かっていても、納得できずに転職を考えたり、色々悩むよね。で、若い頃の草川も、「なんの仕事をして生きていくのか?」って、悩んでいたんだよ。

 

高橋: 草川さんが? 市職員が天職のように感じるんですけど、意外ですね。

 

小柳: うん。で、まあ色々と考えてたどり着いたのが浦安市役所の職員。平凡だと思わない? 

 

高橋: ・・・・(あんただって、浦安市役所の職員でしょ...非凡だけど...)

 

小柳: 草川は大学から新卒で、僕は高卒から民間の小さな企業で働いた後に転職する形で、浦安市役所に採用されたんだ。僕の場合は、その会社の経営が不安定だったからね。このままじゃ失業すると思ったから、まさに「生きるため」に市役所で働くことにしたんだ。都庁の採用試験にも合格したんだけどね。

 

高橋: どうして都庁にいかなかったんですか? カッコいいのに。

 

小柳: はは、鶏口牛後ってのもあるんだけど、やっぱり僕は浦安市で生まれ育ったからね。全国の市役所や町役場の職員も同じだと思うんだ。自分の故郷のために働くってのは、それだけでも大きな心の支えになるからね。

 

高橋: そして、お二人ともバリバリと働いたんですよね?

 

小柳: そんなことないさ~。今じゃ市役所もずいぶんと働きやすくなったけど、20年以上も前は、「ザ・役所」って感じだったよ。市民に対して「ダメなものはダメです」って上から行く職員も多かったし、行政と市民との間に大きな気持ちの隔たりがあったよ~。言わなくても分かるだろうけれどね。僕が市民課の窓口で住民票を発行していた時に、すごい市民がやってきてね。僕より年下の職員の対応が悪いって、ものすごく怒り続けたことがあったんだ。あんまりだと思って僕が窓口を交代して謝り続けたんだけど、1時間近く怒鳴られて、最後は千円札を投げつけられたんだよ。お釣りを返す時の手が震えたね~。

 

高橋: 苦しかったですね...草川さんはどうだったんですか?

 

小柳: 草川だって悶々としてたよ~。彼は、最初は企画の方にいたんだよ。それで、大学の卒論と同じ感覚で市の業務の改善点を見つけて、何か月もかけて事業計画書を作って、当時の課長に提出したんだよ。それを元に、各課の関係職員が集まってディスカッションする場を作れないかなって。

 

高橋: へぇ、若手職員がですか? チャレンジャーですよね。

 

小柳: そう、今でさえ勇気がいることだけど、数十年前だよ? 当時の課長が怒ってしまってね~。草川が頑張ってつくった事業計画書をきちんと読みもせずに、書類の束の上にポンっと乗せたんだよ。そして言った。「俺が課長だぞ! 上からの指示に従っていればいいんだ!」って。その計画はそのままお蔵入りだよ。若き日の草川の努力と熱意が、そのまま放置されてね。そして、草川はその課長から嫌われて、色々な根回しをされて、色々な課を転々とすることになった。

 

高橋: そ、それは...草川さんって、苦労人なんですね...

 

小柳: 今の浦安市役所は、その職員の適正や能力を考えて、ある程度はスペシャリストとしての力を養うような人事ができていると思うよ。都市整備が向いていれば、その分野。財務が向いていれば、その分野。どの市役所でも、人事というのは幹部の胸三寸ってところはあるけどね。職員の気持ちを考えた人事こそが、職員のモチベーションを上げたり、仕事の効率を上げる近道だとは思うけど、なかなか難しいんだろうね~。

 

高橋: 上司と部下の相性というのも、限られた規模の組織では大切だと感じます。人間関係で疲れて潰れてしまったら意味がありませんから...

 

小柳: 僕は、当時、草川が作った事業計画書を読んだけど、どこも間違ってなんかいなかったし、高い論理性と実現性があった。その当時の課長の頭じゃ考え付かなかったと思うよ。上司への絶え間ない笑顔と厚い忠義、人間関係の力学を敏感に感じ取る洞察力、そして、部下の努力や消耗を踏み台できる感性によって課長まで出世したような人だったからね。若手だった僕から見ても、肩書だけで中身は詰まってないと感じたよ。

 

高橋: それは、言い過ぎですよ!

 

小柳: 言い過ぎじゃないね。よくあることでしょ? なりふり構わず世渡りして上の役職に就けば、自分より優秀な人であっても部下にすることができる。それが組織の性質でもあるからね~。市のために働いているはずなのに、自分の立場や出世を重んじる人って、珍しくないでしょ? 役所だけじゃなくて企業もそうだよ。上層部がイエスマンで固められたら、その組織は判断を見誤って大きなダメージを受けるかもしれない。まあ、組織だから、上からの指示に従うってのは大切なんだけどさ、ボトムアップも大切だと思うんだよ。

 

高橋: し、しかし...

 

小柳: 一方、草川は若い頃から努力家で優秀だし、千葉大学で行政や法律について学んでいたから、新卒でも地方行政についてすごく詳しかったんだ~。大学時代の同期は千葉県庁の職員が多いからね。たぶんね、その課長は草川の実力や人脈に嫉妬したんだろうね。「俺が課長だぞ!」って、上から威圧するしかなかったのさ。

 

高橋: もしかして...道路整備課の主任の鈴石君が、今回の水害対応の排水計画を考えた時、課長補佐の草川さんが彼の事業計画書を手に持って、一生懸命にそれぞれの部長や課長にお願いしてまわってましたよね。印刷した事業計画書を一冊ずつ新品のクリアファイルに入れて、部長や課長に手渡して、何度も何度も頭を下げて。でも、草川さんご自身が手にしていた事業計画書は、書き込みがたくさんあって、付箋がたくさん貼ってあって、ボロボロになっていました。あの上司の姿を見たら、鈴石君は感動して泣いてしまいますよ。草川さんは、若手職員だった頃の辛い経験を思い出していたんでしょうか?

 

小柳: そうだろうね。「街を守りたい。部下の夢を実現させたい。」って、頑張っているよ。そりゃ、若手がつくる計画書なんて、穴だらけでダイヤの原石みたいなもんだよ~。でもね、それでいいんだよ。磨き上げると大きな宝石になると僕は思うね~。少しでも形になれば大きな自信になり、大きなモチベーションにつながるから~。20代の職員が最も伸びしろが大きくて、30代の職員が最もアクティブなんだよ。活躍できる元気な時期に、彼らの頭を押さえつける必要なんてないよ~。若い頃に、日本の行政の中心である霞ヶ関を経験しておくことも良い経験だと思うね。市役所の上層部は、積極的に若手を霞ヶ関に送り込んだ方がいいんだよ~。人手不足とかそういった小さなことを考えずにね~。僕も行きたかったな~。

 

高橋: なるほど、勉強になります。

 

小柳: それと、40代の職員は衰えてくるけれど、経験と責任があるから、若手職員を誘導してサポートすればいいんだ。50代の職員に大切なのは、定年後の市の関連団体への再就職だけじゃなくて、10年後、20年後の市の姿だよ~。その姿を考えて判断することが大切だと僕は思うね。定年退職するから後のことは知らんという態度だと判断を誤るし、残された人たちは大変なんだよ~。人は誰だって老いて、いつかは死ぬんだ。この世を去る時に、子や孫の世代が苦しんでいる姿が枕元にやってきて、そういった判断のミスを悔やむ時が来たら、苦しいと思うよ~。後悔したって遅いんだよ~。

 

高橋: べ、勉強になります。

 

小柳: そう考えると、今の鈴石君は良い時に市役所に就職したかもね。そして、草川という優れた上司に巡り合った。上司との相性は運でもあるけれど、それだって鈴石君の力だよ~。たくさんの迷路のような選択肢を選んでたどり着いたんだから。けれどね、若い頃の草川は大変だった。二人で飲みに行った時、「私の人生は、これでいいのだろうか?」って、退職して民間企業に転職しようとしてたんだ。でもね、彼の職業観は、たった一本の映画で変わったんだよ。君にとっては古い映画だけど、「TOP GUN」って知ってる?

 

高橋: トップガン? ああ、トム・クルーズの...

 

小柳: そう、その映画のオープニングを見て、草川の心にグッとくるものがあったんだよ。

 

高橋: ああ、厳しい選抜を受けたエリートパイロットたちが、最新鋭の戦闘機に乗って、カタパルトから出撃するシーンですか? それとも、大空を舞台にドッグファイトを演じるシーンかな?

 

小柳: 違うよ。空母の甲板の上で頑張っているマーシャラーたちの姿だよ。映画のオープニングだけを見て泣くくらいだから、草川にとっては大きなインパクトがあったんだろうね~。

 

高橋: マーシャラー? あの誘導員たちですか? 羽田空港とかでも、航空機を地面で誘導していますよね?

 

小柳: そうさ。最小限の通信機器とベストを身に着けて、身一つでパイロットを助けるでしょ? 親指を立てたサムアップでパイロットに合図して、パイロットもサムアップで応えて、カタパルトが上がってきて、マーシャラーがカッコいいポーズで「3・2・1、ゴー!」って誘導して発進。その後も、マーシャラーたちは、ジェットエンジンの風に飛ばされないように地面に突っ伏したり、空母の甲板の上で一生懸命に燃料ホースを引っ張ったり。そして、戦闘機が空母に帰還してくる時には両手で合図を出して安全に誘導するでしょ? 

 

高橋: ほんとですよね...あれ?

 

小柳: そうなんだよ。浦安市に限ったことかもしれないけど、僕たち市役所の職員って、マーシャラーみたいな感じがするでしょ? 特に浦安市の市民は馬力があるからね。都内に出撃...いや、出勤して、日本どころか世界の猛者とドッグファイトを演じながら一生懸命に働いて、疲れて帰ってくるでしょ? 若き日の草川は、自分の仕事とマーシャラーを重ね合わせたわけだよ~。「そうか、私の職業人生は間違っていなかったんだ!」ってね。

 

高橋: 単純なように感じますが、どんな仕事でも、何かをイメージして働いたり、価値を見出して働くことができるって、幸せですよね。道路整備課で街の道路をチェックして補修している時とかは、マーシャラーの気分なんでしょうか?

 

小柳: 街のトラブルを聞きつけて公用車に乗って現場に向かう時だけは、パイロットのスクランブル発進の気持ちかもしれないけどね。

 

高橋: 草川さんって、市民から街の不具合について電話があったら、すぐに駆けつけますからね。たぶんそうなんですよ。

 

小柳: けれど、仕事に価値を見出して、結婚して、子供を授かった草川の幸せは長くは続かなかった。最愛の奥さんが、お子さんを出産してすぐに亡くなってしまったんだ。悲しみに耐えながら幼子を育て、仕事を続けるのは並大抵の苦労じゃなかった。その中で、草川は、まるで求道者のように仕事に向き合っていったんだろうね。もともと、彼は空手の黒帯で、ストイックに自分を追い込むタイプなんだよ。

 

高橋: そうだったんですか...市役所の中の噂話は苦手ですが、ご本人の口からお聞きすることがない話ですから、とても勉強になります。

 

小柳: 彼が、ひとり親で生活を続けることができたのは、市役所の上司や同僚、部下の支えがあったからこそだって、草川はいつも感謝している。だから、今では、忙しくても職員組合の役員を引き受けたり、若手職員の悩みに応えたり。それと、市内で子育てをする中でたくさんの街の人たちに支えてもらったから、「恩返しするんだ」って、仕事に打ち込んでるよ。

 

高橋: 「恩返し」ですか...

 

小柳: 草川から見たら、僕みたいに市役所のオフサイトで他の公務員と集まって活動している職員を許せないんだろうね。それも分かるさ。彼にとっての夕方6時というのは、保育園に駆け込んで、夕食をつくって、洗濯して、寝かしつけて。仕事よりも大変な時間の始まりだったからさ。オフサイトミーティングに出かける余裕があれば、街の自治会活動やボランティア活動を優先する。それが草川の生き方さ。そういった生き方も大切だよ~。

 

高橋: あの、自治体職員...といっても幅広いですが、要は、行政事務の職員たちがオフサイトミーティングとかでセミナーとかアイデア出しとかやってますけど、あれって、本当に意味があるのでしょうか? ほら、大学とか大学院で行われる年間の講義と比べて、たった数時間ですよね? 付箋にメモ書きして、ペタペタと貼って、その後は交流会と称した飲み会でしょ? お酒とか飲んじゃって、勉強になるんでしょうか?

 

小柳: ああ、同業者からもよく指摘されることだね~。最初から答えが分かっているなら、もっと完璧なんだろうけれど、答えなんてあるはずがないさ~。でもね、大学とか大学院のレクチャーと、僕たちが集まって勉強会を開くことは、似ているようで違うのさ。むしろ、社会人がMBAを取りに行く感じに近いね。ほら、スティーブ・ジョブズさんの名言があるでしょ?

 

高橋: 「点と点をつなぐ」っていう話ですか?

 

小柳: そうさ。高校や大学、もしかすると大学院。若い人たちはそういった場所でたくさんのことを学ぶよね。それが想像性や哲学を生み出す「点」なわけさ~。いつか点と点がつながって線になるわけだから、点となる要素をできる限り取り込むわけだよ。学校で学んだことの多くの点は、社会に出てから使えないことの方が多いけど、どんな人生を送るか分からないわけだからね~。

 

高橋: はい、それは分かります。自治体の事務職員がオフサイトで勉強会を開くのも、そういった「点」を増やすからですよね?

 

小柳: いや、それもあるんだけどさ~。仕事があって忙しいから頻繁に学習会に出られないよね。でもさ、本当に「点」を増やす必要があるんだろうか? 僕たちが市役所で働いていると、すでにたくさんの「点」が経験やスキルとして蓄積されていると思うわけだよ~。でも、たくさんの「点」をつなげるためのモチベーションやヒントがみつからない。一人ひとりが大きな宝箱を持っているんだ。どこかに、それを開ける鍵があるはずなんだよ~。

 

高橋: もしかして...

 

小柳: そうさ。僕たちが集まって勉強するのは、「点」を増やすことだけが目的じゃなくて、すでに集まった「点」と「点」をつないで「線」にするための鍵を探しているのさ~。それとね、僕なりに考えると、オフサイトのもう一つの大切さは、自治体職員としての視野を広げたり、人脈を広げることだね。草川や鈴石君みたいに、職業哲学があって、前向きに仕事に向かうことができれば、それはとても幸せなことだよ。浦安市は財政力があるから、色々なアイデアを形にする力も残っているからね。でも、職業人としての哲学が固まらない、もしくは仕事に不満をためたり、仕事の価値を見いだせずにいる職員だっているはずなんだ。

 

高橋: 私たちだって人間ですから、個性もありますよね。市役所の仕事だけだとモチベーションが湧かなくなってしまったり、逆に担当課によっては忙しすぎて燃え尽きてしまったり。

 

小柳: 以前、「モチベーション3.0」って言葉が流行った時があったよね。今の若い人たちは、給料が高くなるから出世したいんだとか、偉くなりたいから働くんだとか、そういった「外的な動機」だけでは動かないような状態になってきたんじゃないかな。むしろ、仕事をする上での「内的な動機」が大切だと思うんだよ~。

 

高橋: 内的動機...世間一般に言うモチベーションのことですよね。

 

小柳: そうだよ。「自分を高めたい」とか、「自分の仕事の意味を見出したい」とか。目の前にぶらさがったニンジンに向かって走るんじゃなくて、自分が走りたいから走る。その理由は人それぞれでいいんだ。ただ、自分の意思で走る。同じ仕事をしていても、その仕事に価値を見出せなくてモチベーションが湧かなかったら、辛いだけのルーチンワークになって疲れるでしょ? けれど、仕事の意味が実感できていれば、ルーチンワークでもやりがいがあって、疲れが少ないと思うんだよね~。他の自治体で、自分と同じような気持ちの職員に出会うだけでも、モチベーションが上がるんだよ。館山市役所の張本さんなんて、わざわざ南房総からミーティングにやってくるんだよ。すごいと思わないかい?

 

高橋:館山市から!?

 

小柳: 深く考える必要はなくて、要は「楽しい」って感じられれば、それでいいんだよね~。その自治体が抱えている状況は様々で、良いところもあるし悪いところもあるさ~。でも、それをその自治体の職員だけで抱えずに、視野を広げて、一緒に考える。いや、考えるためのシステムを作る。誰かが宝箱の鍵を持っていると信じてね。オープンデータだって宝箱の一つさ。企業や市民が活用するだけではなくて、それぞれの自治体がオープンデータを公開して、他の自治体がそのデータを参考にすれば、大きな力になるよ。

 

高橋: でも...自治体の事務職員があまり目立ってしまうのもアレなんではないでしょうか?

 

小柳: うーん、どうなんだろう? 昔だったら批判が来るかもしれないけど、今の人たちって多様性に慣れてきてるからね。むしろ、「ああ、市役所や県庁の人たちだって、同じ人間なんだ」って、打ち解けてくると思うけどね。でも、波を起こすためには、動力になるための人たちが必要なんだよ。千葉県の場合には、伝説の県庁職員がいるから大丈夫だけどね。

 

高橋: ああ、県庁のベテランの女性職員の坂田さんのことですか? 全国レベルで考えても飛び抜けてますよね?

 

小柳: 飛び抜けるというよりも、突き抜けてるさ~。自治体職員と市民との心の壁をなくすためには、職員から取り組まないといけないわけだし、同業者や市民の人たちにアピールしないと、こっちを見てもらえないからね~。坂田さんって、ああ見えて、県庁では仕事ができるんだよ。自ら矢面に立って、県職員や市職員を引っ張っていく感じなのかな~。

 

高橋: 最近では、髪型も目立ちますよね。

 

小柳:でも、坂田さんの場合には、やりすぎないように気を遣ってるところがあるんだよ。すでに平岡さんっていう優秀なリーダーが僕たちを率いているから。むしろ、うちの総務部長の東堂さんはヤバいね。市役所の中で黙々と働いているから、他の自治体の職員どころか、市内の人たちさえ知らないと思うけどね。

 

高橋: 東堂部長はスキンヘッドで眼光が鋭くて、とてもじゃないですが市役所の職員だと思われませんよ。あまりに迫力がありすぎて、千葉県警の組織犯罪対策課の警察官だと勘違いされたくらいですから。

 

小柳: うん、武勇伝がありすぎて、もはやレジェンドだよね~。どれくらい知っている? 市議会で議員から何度も厳しい指摘があって、東堂部長がマジでキレた時があったよね~。「だ~、か~、ら~、答えられないって...言ってんでしょ!」って。市長がキレるなら分かるんだけど、部長がマジギレして、ネットで大公開だよ。あれは凄かった~。全員が凍ったよ。

 

高橋: あと、草川さんのお子さんが小さかった頃、どうしても草川さんが保育園に迎えに行けなくて、当時の上司の東堂さんが「よしっ、俺が行く!」って、草川さんのふりをして保育園に迎えに行ったことがありましたよね。

 

小柳: うん、東堂さんは草川さんが日曜日に出勤する時は、お子さんを自宅で預かってくれたりもしたからね。スキンヘッドで怖いけど、お子さんは懐いているからね~。でも、東堂さんが保育園に迎えに行ったら、保育士さんたちが、「つばさくーん、お爺ちゃんが迎えに来てくれたよー!」って...いう言葉をグッとこらえて空気を読んでいたのに、お友だちとそのママさんがサクッと言ったのさ。「つばさくん、よかったね~♫ 今日はパパじゃなくて、ジイジのお迎えなんだね~♪」って。東堂部長、まだお嬢さんが結婚もしていないし、ご家庭では「お父さん」なんだよ。なのに、いきなりお爺ちゃん呼ばわりされて、遠い目をしていたそうだよ。

 

高橋: 五十路の保育園パパあるあるですよね。そういえば、市内の公営保育園で、園長先生が一人だけ欠員になってしまったことがあって、市職員として東堂さんが保育園の園長を引き受けたことがありましたよね。

 

小柳: うん、女性がたくさん働いている職場だって、本人的には張り切ってジャージを着て、保育園の園長になったんだよ。でも、「保育士でもないのに園長なの!? 大丈夫なの!?」って、ママさんたちから猛烈なプレッシャーを受けてね。しかも、現場の保育士さんたちからも「なんで、市役所の人が園長なわけ?」って完全アウェイでね。経験のある男性保育士さんでさえ気を遣うことが多いのに、若手の頃の窓口業務どころじゃないくらいに精神が擦り切れたそうだよ。たぶん、あのエピソードがきっかけで、今のヘアスタイルが出来上がったと思うんだ。

 

高橋: 三社祭の時とかは神輿を担いで練り歩いたり、自治会の役員さんたちと交流会と称して朝まで飲み明かしたり。東堂さんって、口数が少ないでしょ? で、若い市民のお父さんたちから「どうして、東堂さんは、そんなに無口なんですか?」って、尋ねられたんですよ。そしたら、彼、「ええ...羽田空港の航路が浦安上空になるかもしれないという時がありましてね...市民の皆さんから猛烈な抗議がやってきましてね...その時の市役所の担当が私だったのです...あまりに厳しい突っ込みを受けすぎましてね...その時のトラウマがきっかけで...私は...無口になりましてね...アルコールで脳のリミッターを...リミッターを解除しないと...市民と自由に話すことができなくなりましてね...」って。真面目に答えすぎて保護者がドン引きですよ。でも、一番面白かったのは、環境保全課の課長だった時に、リアルな浦島太郎になった話でしたね。

 

小柳: 境川にウミガメが迷いこんだことがあって、まあ「河川は千葉県の管轄だよね」って構えていたんだ。すると、上流から東堂さんがボートに乗ってやってきたんだよ。「カメを救えないようでは、市民を救うことはできないのだよ」という顔でね。東京湾までウミガメを連れて行って放してあげた後、記者さんからインタビューを受けたんだ。普通の市役所の人だったらさ、「条例等がありまして、対応を協議していたところではございますが、今回は野生動物を助けることが大切だと思いまして...」とかってのが模範解答でしょ? 東堂さんのコメントは何だったと思う? 「乙姫様のご褒美があればいいですね」って言っちゃって、大手新聞に掲載されちゃったんだよ。乙姫さんから招待されたら、酒池肉林だよ? この切り返し、最高にクールだったね~。

 

高橋: ほんと、東堂さんだけじゃなくて、うちの部長さんたちって、おもしろいですよね。でも、市民の皆さんにとっては、市議会で真顔で答弁している姿くらいしか見えないでしょうから。

 

小柳: 全くだね。一部の市議会マニアの市民さんたちがハマる理由が分かるよ。今度の市議会の定例会で、東堂部長に進撃の巨人の「ピクシス司令」のコスプレをやってもらえばいいんだよ~。髭を付けたら瓜二つだよね。浦安市民から見た部長の印象が変わるはずさ~。

 

高橋: い、いえ、変わりすぎてしまいます。

 

小柳: じゃあ、イベントで部長にコスプレをやってもらおうよ~。今度、事業計画書を作っておくからさ~。でもさ、こうやって市役所で働いたり、たくさんの自治体の職員と繋がっているとね、一つだけ、とても悩むことがあるんだよ~。

 

高橋: 悩み?それって、なんですか?

 

小柳: 自治体の行政事務職員としての仕事を表現する言葉さ。おっと...ちょっと待ってね。このレイヤー、間違ってるね。データテーブルから修正しよう。カタカタカタ

 

高橋: 自分の仕事を表現する言葉?

 

小柳: 「〇〇として」の「〇〇」の部分だよ。自分たちの仕事に矜持を感じて、自分の心にグッとくる言葉さ。それと、自分に子供がいたとして、「お父さんの仕事、カッコいい!」って感じる言葉。それって、なんだろうってね。

 

高橋: うーん、難しいですね。学校の先生だと「教師として」、病院の先生だと「医師として」、寿司や工芸品を生み出している人たちだと「職人として」、警察の人たちだと「警察官として」、ビジネスマンなら「企業人として」...みたいに、それぞれの仕事の矜持を示す言葉がありますから。「市役所の職員として」ではいけないのでしょうか?「役人として」という表現は心にグッときませんし、でも、それだと、国家公務員の事務職も同じではないでしょうか?

 

小柳: 例えば、霞ヶ関に勤めている人たちなら、「事務官として」とか「本省の職員として」という表現があるでしょ? 国家公務員の多くは、職位に「官」がつくでしょ。元々は藩士、つまり武士の流れがあったから、クールな表現を考えたのかもしれないね。昔からの言葉が今でも続いているね。それぞれの省庁には日本全国に関係機関があって、霞ヶ関は本丸だから本省。大手企業では本社って表現をするよね。それらをアピールする人はほとんどいないだろうけれど、自分自身の心の支えになると思うんだよね~。国家公務員が外国に行って仕事をする時は、パスポートが緑色なんだよ。外交官は茶色。赤や青じゃないんだよね。窓口に並ばなくても、職場で支給されるらしいよ。「クッー!」って思わない?

 

高橋: 私たちのような自治体職員だって、旧地方自治法では「吏員」と呼ばれていましたね。事務官に対して事務吏員です。うーん、吏員というのはグッと来ないですね。消防の場合には、法律上、階級がある職員は今でも消防吏員ですよね。「消防士」というのは一番下の階級のことです。消防吏員の階級は、消防士、消防士長、消防司令補、消防司令、消防司令長...とありますが、世間一般には消防士というだけで話が通じています。どうしてなんでしょう?

 

小柳: そうさ、消防士という言葉が彼らの仕事の大切さを表現できているし、「士」という文字も素敵だよね。災害と戦う人という感じがあってさ。じゃあさ、現役の消防吏員が自分たち内輪で「消防士」って呼ぶかというとそうじゃなくて、「火消」って言ったりもするんだ。江戸時代から続くような職業人のプライドっていうかな、すっごくカッコいいよね。

 

高橋: 行政の事務職員が「俺たちは役人だからな」と言ってもグッときませんが、消防吏員が「俺たちは火消だからな」って言ったらグッときますね。

 

小柳: そうなんだよ~。言霊っていう単語を聞いたことがないかい? 昔の人たちは、言葉に魂が宿ると信じていてね。形のないものを言葉で表現するって、とても大切なんだと思うんだ。そして、消防吏員の子供たちだって、お父さんの仕事の作文を書く時には、「僕のお父さんは、消防士です! いつも、たくさんの人たちを救っています!」って、元気に言えるでしょ? お友達も「おー、おまえの父さん、スゲーじゃん!」って。僕たち自治体職員だって大変な苦労を続けて働いているし、街を守るという大切な仕事があるよね。子供たちが「お父さん、カッコいい!」って言ってくれる仕事なんだよ。でもね、その言葉が見つからないんだ~。

 

高橋: ほら、小柳さんたちが参加しているオフサイトでは「公務員として」という表現が多いでしょ? 公務員でいいんじゃないでしょうか...

 

小柳: それで、自分の心にグッと来る? 大切な言葉だけれど、ほら、なんだか外的な動機に感じない?「公務員として正しい行動を」とか、そういった感じの。違うんだよ、もっとほら、心の中からグワーッと熱くなるような言葉さ~。

 

高橋: 難しいですね...もしかして、その気持ちを表現する日本語自体が存在していないんじゃないでしょうか。だとすると...

 

小柳: そうなんだよ。日本の職業であっても、カタカナの方がすんなりくる職種はあるでしょ? 「システムエンジニア」という職業は、英語だけれど普通に日本語として使われているわけだよ。ディズニーのスタッフは「キャスト」って表現されるよね。「係員」よりも夢があるよ。それと、ほら、映画や小説では、政府機関のエージェントとかが出てきたりするでしょ? 

 

高橋: エージェントって、カッコいいですよね。奥さんや子供たちでさえ、お父さんがどんな仕事をしているか知らないとか。ほら、日本でも、エージェントっぽい公務員って結構いるって噂を聞きますよね。警視庁の職員とか、外務省の職員とか。同じ公務員なのに、何だかカッコいいなって。

 

小柳: なにせ、扱っている内容が国家機密だからね。僕たちから見ると、国土交通省の緊急災害対策派遣隊「TEC-FORCE」とかも、エージェントっぽくない? 

 

高橋: ああ、なんだか分かります。

 

小柳: でもさ、笑い話になるけど~。エージェントっぽい男の人って、独身とか子供がいないバツイチが多いイメージがあるけど、もしも一般の女性と出会って結婚して、共働きで子育てをしていたら大変だと思うよ~。奥さんやお子さんたちは、お父さんの詳しい仕事を知らないわけだよ。家族に対してさえ、職業人としての守秘義務があるだろうから~。だとするとさ、お父さんが朝から深夜まで働いてボロボロになって帰ってきたり、休日にゴロ寝して死んだように眠っていても、家族から見れば家庭的じゃないダメな父親に見えるでしょ~? 気性の荒い奥さんだったら、問答無用で「育児しなさいよ! 家事しなさいよ!」ってハードヒットを加えるかもね~。

 

高橋: そ、それって厳しくないですか? エージェントっぽい人たちって、ミスったら命に係わるかもしれないわけでしょ? でも、奥さんには、「いやさ~、ちょっち仕事がたまっててさ~、ごめんね~」とかって言うんでしょうか?

 

小柳: わかんないね~。ご主人がミスって死ぬどころか、幸いにも職務を全うして寿命が尽きた時でさえ、葬式の時に家族がその任務の重さを伝えられたら「え!?」って思うかもね。しかし、本人はすでに棺の中だよ。どんな気持ちでこの世を去るんだろうね。で、僕は思ったわけだよ。エージェントって、辞書で調べたら「仲介人」とか「代理人」っていう意味なんだよ。その単語自体は、別にカッコいい意味というわけじゃないんだな~これが。仕事とリンクしてイメージが膨らむからカッコよく感じるというか。だったら、自治体の事務職員が自分たちで言葉を考えればいいんだよ~。

 

高橋: そうか! 自分たちの仕事の矜持を表現する言葉がないなら、「公務員として」という看板じゃなくて、自分たちで考えればいいんですよね。おっと...ちょっと待ってくださいね。このレイヤーは番地がずれまくっていますね...よっと...これでいいかな。カタカタカタ

 

小柳: そうなんだよ。で、公務員という単語を英訳したら、「Public Servant」って単語が出てきたんだよ。サーバントって、ICTでも聞く言葉でしょ?

 

高橋: ICT業界の「Servent」の場合にはスペルが違いますが...ネットワーク・ノードが対等なコンピューターネットワークにおいて、サーバとクライアントを兼ねるシステムのことをサーバントって呼びますよね。あと、最近の組織論では、部下に指示を出して引っ張るリーダーではなくて、自ら下準備をしたり調整して部下を支えるタイプのリーダーの姿を「サーバント・リーダーシップ」とかって言いますよね。小柳さんや草川さんって、まさしくサーバントリーダーですよ。

 

小柳: 僕や草川はただの下働きの課長補佐だよ~。でもさ、Servantって「召使い」とか、「使用人」とか、そういった意味があるんだけど、「奉仕者」という意味があるんだよ。公共の奉仕者だから、Public Servantというわけだね。でもさ、僕たちにとってPublicなんて当然のことなんだから、サーバントだけでいいじゃないかってね~。「地方公務員が集まるオフサイトミーティング!」ではなくて、「サーバントが集まるオフサイトミーティング!」って、素敵だと思わない?

 

高橋: あ、何だかグッと来ますよ。これだと、地方行政で地道に働いている職員たちも、街のことを考えてオフサイトで集まる職員たちも、心の柱は同じなんですよね。

 

小柳: 国家公務員もパブリックサーバントなわけだけれど、彼らの場合にはサーバントというよりもオフィシャルって英語表記されることがあるそうだよ。だったら、地方公務員がその言葉を頂いちゃおうってわけさ~。ほら、街で市民を助けても、「いえ、仕事ですから」といいつつ、「市民を助けることが、サーバントの役目ですから」って心の中で言ったらグッとくるでしょ? 市議会が近くて仕事が忙しくても、「我々、サーバントはこれくらいのことでは動じない」って、何だか中学二年生の男子生徒みたいだけどね。小学生の息子に相談してみたら、「うん、かっこいいよ」って言ってくれたんだ~。カタカタカタ...カタ... よし、これで大丈夫かな。

 

高橋: そろそろ、熊田君や笹本君、北村さんも起きてきますね。

 

小柳: GISタスクフォースは、ここから先、草川たちの現場を支える裏方になるからね~。現場のスタッフのタブレット端末にはすでに双方向で情報をやり取りして、行動計画を伝えてあるから、あとは防災本部からの最終的な開始の指示を待とう。忙しくなるぞ~...っていうか、君島くんはいつまで寝てるんだ? もう2時間も寝たから十分さ~。おい、起きろ~。ガスッツ

 

君島: がっ! 今、蹴ったでしょ!?

 

 

(台風上陸まで5時間)

 


第九話: DECISIVE BATTLE


次回予告。

 

大型の台風が上陸した浦安市。道路整備課の鈴石が考案した水害排水システム「オロチ」が、満を持して市内に展開される。小柳率いるGISタスクフォースは、オロチを支援することができるのか?

 

次回、DECISIVE....あまりにアクセス数が少ないので、もう連載をやめようかと思い始めた。