お父さんはサーバント: 細かすぎて市役所の中の人たちにしか伝わらない物語を書き続ける ①

 

このエントリーは長編になるので、少しずつ書きためる。更新されたらエントリーの日付が進む。

 

浦安市の水害対策について考えていたのだけれど、途中で書く気が失せたので書かないことにした。

 

が、ふとしたきっかけで、浦安市役所をモデルにした物語を書いてみたくなった。細かすぎて全国の市役所の中の人たちしか伝わらないような、フィクションだけどリアルなストーリー。経緯は以下のエントリーに書いた。

 

広報うらやすを見て、自分は思い出した。水害のリスクを抱える街で生活していることを (後編)

 

現況:

やはり中学二年生風の書き方になった。市長がマクロス艦長みたいになってしまったので、これからコミカル路線にする。小柳と市民課を落としてから持ち上げようと思ったら、落としすぎた感あり。

 


 

※ この物語に登場する人物、機関、担当課などの設定は、あくまでフィクションです。実際の市長や副市長、市役所の職員さんたちとは関係がありません。

 

また、登場人物の発言は実際の市職員の意見ではありません。「市役所の人たちの気持ちって、たぶん、こんな感じかな...」と地域住民が想像しているだけにすぎません。

 

ストーリーの中に、実際に行政が公開しているオープンデータを用いることがありますが、その場合にはその旨を記載します。浦安市のことに関心があれば、市のウェブサイトなどで確認してください。 

 


 

【主な登場人物】

 

小柳:

40代後半。総務部の「情報政策課」の課長補佐。君島の上司。浦安高校を卒業した後、コンピューター技師(今のシステムエンジニア)として民間企業に勤務。その後、安定した職を求めて浦安市役所に転職し、情報政策課に配属された。地理情報システム(GIS)や情報通信技術(ICT)、オープンデータを得意とする。優秀だが、自他ともに認める変わり者。業務の課題に気づいたら積極的に行動に移さないと気が済まず、勢いで周りを巻き込む性格。とある経緯から市民課に異動になっていたが、情報政策課に戻ってきた。草川と同期。

 

君島:

30代前半。総務部の「情報政策課」の主任。小柳の部下。附属高校から東海大学に進学し、卒業後に浦安市役所に採用される。体育会系で明るく単純な性格。小柳の熱血指導によってGISやICTのスキルを体得し、様々な場所に駆り出されてスキルを高めた。小柳の提案に乗って国土交通省に出向することになり、苛烈な業務に耐えて、やっと浦安市役所に戻ってきた。髪型にはこだわるが、市職員としての職業人生にはあまりこだわらないことにしている。鈴石と同期。

 

草川:

40代後半。都市整備部の「道路整備課」の課長補佐。鈴石の上司。元協働推進課。千葉県内の地方国立大学を卒業後、浦安市役所に入庁。誠実で思いやりのある性格で上司や部下からの信頼も厚い。市民の声を丁寧に聞き、市役所のルールに従って地道に働くタイプの職員。GISやオープンデータといった先進的な行政にはあまり関心がなく、印刷物の配布や、市民との直接的な対話による働き方を大切にする。小柳と同期。小柳は草川のことを同期の友人だと思っているが、草川は小柳のことをただの同僚だと思っている。

 

鈴石:

30代後半。都市整備部の「道路整備課」の主任。草川の部下。首都圏トップクラスの進学校から東京大学に進み、卒業後は外資系証券会社にて勤務。その後、思うところがあって浦安市役所に転職。知力と体力には自信があり、熱意をもって浦安市の業務に取り組んでいたが、最近では、わが子が生まれたことをきっかけに「市役所」という独特な社会で生きていくことに疑問を持ち、市職員としての仕事の意味について悩み始める。年下の君島と同期。

 

熊田:

20代前半。健康こども部の「健康増進課」の若手職員。法政大学を卒業後、浦安市の職員として採用される。市役所の中の人間関係や出世話には敏感だが、将来像についてはあまり深く考えないことしている。小柳の人選によって情報部門のGISタスクフォースのメンバーとして招集される。笹本と同期。

 

笹本:

20代前半。都市整備部の「みどり公園課」の若手職員。立教大学を卒業後、浦安市の職員として採用される。仕事のことよりも女性職員とのイベントや出会いの方が気になるお年頃。小柳の人選によって情報部門のGISタスクフォースのメンバーに招集される。熊田と同期。

 

東堂:

50代後半。情報政策課がある「総務部」の部長。小柳の上司。部下に対して昭和的でぶっきらぼうな態度をするので怖がられているが、実は親分肌で優しい人柄。

 

高橋:

30代後半。総務部「情報政策課」の係長。なし崩し的にGISタスクフォースの一員になる。情報システムのスペシャリストである小柳のことを尊敬していて、情報部門のタスクフォースで一緒に働けることに興奮している。

 

北村:

年齢非公開。福祉部「高齢者福祉課」の主任。女性職員。第四話にて登場。

 


第一話: 幹部会議


 

夏の日の午後、市長室の隣の会議室。

 

テレビニュース: 「超大型の台風14号は、非常に強い勢力を保ったまま北上しており、明日の朝には首都圏に上陸する予定です。不要不急の外出は避け、地域の防災について注意してください」

 

実況リポーター: 「現在、千葉県浦安市におります!今回の超大型台風は、暴風に加えて大雨が予測されており、地域住民の皆さんも不安を感じておられます! こちらからは以上です!」

 

市長: この前、市内のショッピングセンターで買い物をしている時に、このリポーターとすれ違った気がする。まだ台風が来ていないのにヘルメットをかぶって大変だな。

 

総務部長: 彼は新町にお住まいの浦安市民ですね。

 

市長: なるほど。とても心がこもったリアルな実況だと感心したが、そういうことか。で、庁舎内の状況は?

 

総務部長: 明日の朝の超大型台風の上陸に備えて、各職員が庁舎内でスタンバイしています。都市整備部を中心として、担当課によっては職員に大きな負荷がかかることが想定されますので、他の課の職員が業務のバックアップに入ります。

 

市長: 関係各所との連携は?

 

消防長: ここまでの大型の台風の場合には予測が難しいところではありますが、最悪のケースも想定した上で各職員が準備を行っています。

 

副市長: 市民の避難場所は確保できているか?

 

教育総務部長: 万が一に備えて、市内の小中学校などの市の施設について避難時の受け入れ準備を進めています。しかし、非常食や寝具、プライバシーを守るためのスクリーンなどが不足している状況です。

 

市長: 全てを用意するのは難しいが、できる限りのことをやってくれ。排水設備はどの程度まで耐えられる?

 

都市整備部長: 今回は、洪水、内水、高潮という全てのリスクを想定しております。内水については現状でも生じることがありますから、完全に回避することは難しいかと思います。市としては排水基本計画を策定して取り組んできましたが、ポンプ場ならびに排水機場のリニューアルが間に合っていないのが現状です。これらの設備でカバーできないエリアにおきましては、公園や学校の下の貯留施設で対応することになります。これらにつきましても、かなり前に事業を計画したのですが、完全には整っておらず、市の財政だけでは対応できない状況でして...県や国に要望を伝えながら補助金を...

 

市長: 議会答弁ではないし、今さらそんなことを言っていても始まらない。この状況だ、やるしかない。高潮対策についてはどうなっている?

 

都市整備部長: 境川河口部の水門については、ご存じの通り、必要性がありますが建設には着手できていない状態です。また、高潮の場合には内水と違ってシミュレーションが難しく、国のデータに基づいて対応を協議しております。

 

市長: 例のプロジェクトは順調か?

 

都市整備部長: 道路整備課の草川課長補佐を中心として、すでに準備が整いつつあります。今回の台風には間に合うかと...

 

副市長: よろしく頼んだよ。ところで、市職員たちへのサポートはどうなっている?

 

総務部長: 台風の接近前の準備、上陸中および通過後の対応にて、数日間の連続勤務が必要になる場合を想定しております。液状化の時のような突発的かつ長期的な対応よりも負荷が小さいとは思いますが、通常の業務ではありえない程の疲れがやってくるかと思います。市職員の負荷をできる限り軽減するため、仮眠室や食事などの準備を行っています。

 

市長: 肉体的な疲労だけでなく、精神的な疲労にも留意してくれ。市内の情報の把握はどうなっている?

 

総務部長: 情報政策課を中心としたタスクフォースが対応します。

 

市長: タスクフォースのリーダーは誰だ?

 

総務部長: 小柳課長補佐です。

 

市長: そういえば、人事課長が決裁の書類を持ってハンコを集めながら庁舎内を走り回っていたが、急いで市民課から情報政策課に異動させるような職員なのか?

 

総務部長: 観測史上、最も大きな台風が上陸するということで、情報部門ではGIS上級技術者の小柳補佐の力が必要と考えます。

 

副市長: 東日本大震災の液状化の際には、当時は主任だった小柳がGISを動かして情報を分析していました。彼の働きがなければ市全体の情報が錯綜し、浦安の復旧はもっと遅れたことでしょう。今回、彼を中心としたタスクフォースが、浦安市全体の情報を集積し、この会議室に設置された複数の大型モニタにGISの情報をリアルタイムで表示するそうです。

 

市長: GIS? 地理情報システムのことか? 情報政策課だけでなく、各課にもGISを使える職員はいるだろ?

 

副市長: 彼のGISのスキルは全国の自治体だけでなく、関係省庁や大学の研究者さえ一目置いております。

 

市長: そのような職員が、どうして市民課なんだ? まあいい。一人の職員の人事について話し合っている場合ではない。建設業協会や消防団との連携は?

 

総務部長: GISの地図データがリアルタイムで伝達され、担当職員が口頭でも説明し、的確に対応していただけるようにお願いしています。消防団長からは準備完了との連絡があり、市職員に食事の差し入れが届いております。

 

市長: いつもながら仕事が早くて、気が利く人だ。それにしても...

 

副市長: どうしました?

 

市長: 浦安に最悪の水害を引き起こしたキティ台風がやってきた時、当時の浦安町長は、どのような気持ちだったのだろうか。今と比べて、技術も設備も整っていない時代。自然の脅威に対して、地方行政ができることは限られている。それでも苦難に立ち向かった町長は、何を感じ、何を思ったのだろうか。私の仕事は、判断することだ。その判断が間違っていたら、たくさんの人たちに影響を与えてしまう。17万人近い人たちの生活が、私の判断に...

 

副市長: 当時の浦安町長は、気性の荒い漁師を束ねていた網元だったそうですから、並外れた胆力とリーダーシップをお持ちだったことでしょう。しかし、この瞬間の気持ちは、今のあなたと同じだと思いますよ。浦安だけでなくて、台風が上陸する自治体の全ての首長が同じ気持ちでしょう。私は子育て支援にはあまり自信がありませんが、このような分野は得意です。我々の力を信じて、部下たちの力を信じて乗り切りましょう。

 

(台風上陸まで24時間)

   


第二話: 帰ってきた過去のヒーロー


 

情報政策課のフロア。

 

20代の若手課員(熊田): おい、笹本、俺たちは水害対策のGISタスクフォースに選ばれたんだぜ。俺、新卒で入って健康増進課で、毎日、毎日、検診の案内とか電話対応なんだけど、タスクフォースだぜ! なんだかカッコよくねぇか?やっぱ、マーチ卒の俺たちって、幹部から認められてるんだなって! 同期よりも一足先に出世かな? 名刺に肩書がつくかもよ!?

 

20代の若手課員(笹本): まあね。みどり公園課にいる僕としては、台風が来て外回りのパトロールかと思っていたからラッキーかも! 雨風に吹かれずにエアコンの効いた庁舎の中で、パソコンを使っていればいいんだろ? 今度の飲み会、女性職員の前でウケがいいかもね。「ああ、僕ですか? GISタスクフォースの一員で忙しくてね...」みたいな!

 

熊田: でもさ、GISタスクフォースのリーダーって、小柳さんだろ? 先輩から「変わり者だから近づくな」とかって言われたよ。

 

笹本: 役所の中は色々と噂や陰口があったりするからね。誰かが目立てば嫉妬があるかもしれないし、嫉みもあるかもしれないし。心穏やかに仕事して着実に出世したいなら、空気を読むことだよ。上には逆らわず、スタンドプレーは避ける。思ったことでも口に出さない。「前例は大切に」だよね。

 

熊田: そうそう、それが世渡りの鉄則さ。あの人、市民課でテキパキ働いて、自分でコピーとか取っちゃって、すっごく腰が低いよね。出世欲がないんだよ。俺はまだ20代だけど、20年後にコピーなんて取りたくないね。「おい、君、これコピー」で人を動かすのさ!

 

笹本: でもさ、小柳さんって、昔は凄い人だったんでしょ?

 

熊田: 浦安の液状化の時に浦安市役所で情報が錯綜して、小柳さんがGISを起動させて浦安市の天空の目になったとかって聞くけどね。ほんとなのかな? 小柳さんって、全然、オーラがないよね。

 

笹本: ああ、その市役所伝説、僕も聞いたことがあるよ。まあ、東日本大震災って、僕たちが高校生の頃の話だからね。実際にはどれくらいのことだったのか実感がないよ。東京都とか千葉県とかに助けてもらったんじゃないの? 小柳さんの武勇伝だって、尾ひれと尻びれがくっついてるって。彼、落ち着きがなくて動きまわってるけど、デスクのノートパソコンの前だと死んだ魚の目みたいになってるよ。本当にコンピューターが得意なのかな? 休みの日は市民活動だとか、NPOだとか、何が楽しいのだろうね。

 

熊田: しかも、今回は情報部門のタスクフォースのリーダーだろ? なんでだろうな? わざわざ市民課から情報政策課に異動するような人なのかね。

 

笹本: むしろ、僕的には情報政策課の主任の君島さんの方がカッコいいと思うんだよ。

  

熊田: 浦安市役所から国土交通省に出向してる先輩だろ? 日本政府だぜ? クッー、カッコいいよな! 若手のホープだよ。このペースなら、30代前半で係長に出世するかもよ! 部長一直線だよ。

 

笹本: 定年した後だって浦安市の関連団体に再就職できるかもよ。そうそう、君島さんって、今回の超大型台風に備えて、霞ヶ関から浦安市役所に呼び戻されたそうだよ。なんだよそれドラマかよって。きっとすごい人なんだよ。情報部門のタスクフォースでは、サブリーダーとして小柳さんのサポートに入るそうだけど、リーダーでいいんじゃね?

 

熊田: ほんとだよね。

  

小柳: どうも~、こんにちは~。ゴロゴロゴロゴロ

 

笹本: ・・・・

  

熊田: ・・・・

 

小柳: え~と...僕の机は...残ってないよね...

 

熊田: ・・・・(来たよ。荷台車に段ボール箱を積んで押してきたぞ!?)

 

笹本: ・・・・(あの段ボール箱、なにが入ってるんだ?)

 

情報政策課長: よぉ、おかえり。10年ぶりか? 当時の課長はすでに定年退職したよ。お前の机は入口じゃなくて、私の隣だ。トレーダーのような6面モニタを置くだろうから長机を探しておいた。

 

小柳: はい~。でも、僕はカウンターの近くが好きなんですよ。管理職こそ、部下のすぐ隣の入り口に近いところに座った方がいいと思うんですよ~。すぐに動けますから。ああ、え~と、う~ん。お陰様で、やっと戻って来ることができました。庁舎が新しくなっちゃって、僕が使っていたデスクもなくなっちゃいまして、それにしても長かったかなって、思ったりしたりして...

 

情報政策課長: 相変わらずだな。早速だが、私は水害対策本部で市長や部長たちの相手をすることになった。今回は本部に多数のモニタを配置して、GISの情報を分析して意思決定するのだが、アナログな人たちの前でインターフェイスを動かす管理職が必要だ。ということで、情報部門の責任者として私が同席する。この場所は、お前がいれば大丈夫だ。タスクフォースのリーダーとして頑張ってくれ。スタスタスタ

 

小柳: はい~、かしこまりです~。えっと、あの、そこの若いお二人さんにお願いがあるんですが、一緒に荷物を搬入して、箱を開けてもらえないでしょうか? 廊下にたくさんあるんです。

 

熊田: は、はい!

 

笹本: (ええ!? なんだこれ? マルチディスプレイ用のモニタとデスクトップ型のワークステーション、それとプロ仕様のインカム?)

 

熊田: あ、電話だ。はい、健康増進課...じゃなかった、情報政策課です。

 

総務部長: 総務部長の東堂だ。貴様は「情報政策課」という名前なのか? 所属と名前を名乗るという接遇の研修を忘れたのか!? そこに小柳補佐がいるだろ。代わってくれ。

 

熊田: 総務部長!? し、失礼しました! (なんでいきなり部長から直電なんだよ...一体、小柳さんって、何者なんだ? 市民課だろ? わかんねー!)

 

小柳: はい~、小柳です~。

 

総務部長: 機材は届いたか? 

 

小柳: はい~、助かります~。

 

総務部長: 全く、無茶な要望を出しおって。バレると市議会で私がツッコミを受けるぞ。まあいい、この程度のことは私が責任を取ればよいだけの話だ。お前にとっては、液状化の時の方が修羅場だったかもしれんが、今回は観測史上最大級の超大型台風の上陸だ。ウォーターフロントの浦安市にとって、何が起こるか分からない。気を抜かずに冷静に対処しろ。それと、お前は五十路が見えてきて、もう若くない。あまり無理をせずに若手に仕事をまわせ。その方が次の世代が育つ。それでは、頼んだぞ。ガチャン

 

小柳: はい~、かしこまりです~。

 

笹本: ・・・・

 

熊田: ・・・・

 

小柳: えっと、あの、そこのお二人にお願いがあるんですが、タスクフォースの皆さんが座るデスク...いや、デスクじゃなかった、座るのは椅子だったかな、まあいいや、デスクの上に、大型のモニタを2台ずつ。あと、ワークステーションを1台ずつ、それと、インカムも置いて行ってもらえないでしょうか?

 

笹本:・・・・ (マジで? すごくないか、このマシン? メモリがテラバイトって書いてあるぞ。サーバマシンじゃねぇのか?)

 

熊田: ・・・・ (パーティションみたいにデカいモニタだな。市役所なのに大型のデュアルモニタで仕事すんのかよ? でもさ、今から一台ずつソフトウェアをインストールしていて間に合うのかよ? 明日の朝には台風が来るんだろ?)

 

小柳: それができたら、ハイブリッドクラウドに接続して、それぞれセットアップしてほし~のですが...端末からクラウドでGISを動かす準備はできているので...仮想環境を使えば全部で1時間くらいあれば使えるようになりますから。

 

笹本:・・・・ (なに言ってんだ? CD-ROMはどこだよ?)

 

熊田: ・・・・(意味わかんねー!)

 

情報政策課の係長(高橋): 小柳さん! リーダーなのに、なにモニタを運んでるんですか! マシンのセットアップなら、私たちがやりますよ! ていうか、誰に買ってもらったんですか、この機材!?

 

小柳: う~ん、副市長からタスクフォースのリーダーの指示があって、それを引き受ける時、条件を2つお願いしたんだよ。一つは、この機材。情報政策課なのに、普通のパソコンじゃだめでしょ。いくらクラウドを使うって言っても。非常時に情報政策課のマシンがフリーズしたら、浦安市が大変なことになるからね。何十枚のレイヤーを分析する時はモニタが狭いと疲れるっしょ~。

 

高橋: し、しかし、これだけの機材を揃えたら、競争入札の案件でしょ?

 

小柳: ああ、これ? 各課からのレンタル品だよ。個別に用意するんだから随意でも買えるじゃない。貸してもらっただけ、あとで返すから。責任は総務部長がとるってさ。浦安がマジで広範囲に浸水したら、被害総額は何億円どころか、何十億円、いや、最悪だと何百億円でしょ? 大切な市の予算だということは重々承知だよ。でもね、被害額に比べたら情報のためのワークステーションなんて安いもんだよ。使い放題のネットがあるのに、公費で通信料を請求する人よりマシだと思うけど?

 

高橋: た、確かに、浦安市がピンチで、「この情報を伝えなきゃ!」ってところでパソコンがフリーズしたら大変なことになりますけど。(ヌルいようでザクっと来るから怖いんだ、この人は)

 

小柳: お金だけじゃないのよ。人の命がかかってるかもしれない。市役所の不手際で誰かが死んだらどうすんのさ? 今は非常時なんだよ。下手の考え休むに似たりでね。情報があるかないかで、ゴールまでのスピードが全然違うんだよ。

 

高橋: 勉強になります!

 

小柳: 副市長にお願いしたもう一つの条件はね~。僕を情報政策課に異動させてほしいってこと。古巣に戻りたいって意味じゃなくて、もしもトラブルがあったら、僕が責任を取りたいから。

 

高橋: ご自身が責任を取るのですか!?

 

小柳: ああ~、タスクフォースが失敗したら僕の責任ね。うまく行ったら僕以外の人たちの貢献だよ。ほら、プロジェクトがうまくいったら自分の手柄で、失敗したら他人の責任にするような管理職が嫌なんだよね~。

 

情報政策課の係長: あなたのお気持ちは分かりかねます。さて、笹本、熊田。急ごしらえのチームだが、今回、お前たちは情報政策課の一員として浦安市の情報部門を任されることになった。最も厳しい担当の一つだ。辛いだろうが、必死になってついてこい。

 

笹本: は、はい! (え? 辛い? 雨風なしで楽できるんじゃなかったのかよ?)

 

熊田: 承知しました! (意味わかんねー!)

 

高橋: それと、小柳さんは、基礎自治体で全国に先駆けてハイブリッドクラウドを立ち上げた職員だ。しかも、この非常事態。東京の23区でさえ開発が追い付かなかったハイブリッドクラウド。通称、Uクラウドの本当の力を見ることができるかもしれない。そして、開発者の一人が自ら操作するんだぞ。こんなチャンスはめったにない! 俺は、今、猛烈に感動している!

 

笹本: ・・・・ (市民課のノートパソコンの前で面倒くさそうにしてる人が?)

 

熊田:・・・・  (ぱわぁが出ねー!)

 

小柳: あの...K島くんって、そろそろ到着するかな?

 

高橋: さきほど、君島から電話がありました。ようやく霞ヶ関の庁舎から抜け出せたそうです。浦安に帰ってきたら、とりあえず風呂に入って、着替えたいそうです。

 

小柳: あはは、その調子じゃ、徹夜続きかも~。じゃあ、着替えたらそのまま市役所に来るように言っておいてね。あと数日、がんばってもらおうよ。あはは~。

 

笹本:・・・・ (この人、鬼だ。)

 

熊田:・・・・ (まちがいない、鬼だ。)

 

(台風上陸まで20時間)